長野横笛は京都の塗師・蒔絵師。名は次郎兵衛。屋号は橘屋。
工房には多くの職人を抱えていたとみられ、質の高い塗りと蒔絵をほどこした飲食具を多く残している。
外側は、黒とうるみ色を交互に放射線状に配した寄木塗と桐文の蒔絵で落ち着いた雰囲気であるのに対し、蓋を開ければ山や川を背景に連れ飛ぶ鶴の群れが金鮮やかに描かれている。高台内にも同様に群鶴が蒔絵されている。合口には銀覆輪がされ豪華さを引き立たせている。
黒塗四方桟の桐の共箱で、蓋裏左下に『長野横笛』黒文入隅四方印を捺す。この印はM-20掲載の文化2年銘を持つ「金馬茶器」と同じ印であるが、こちらの方が印影がやや潰れているので「金馬茶器」よりも後年の作品(文政〜天保頃?)と推察される。
状態も良く意匠もこの時代の流行を良くあらわしており、江戸時代の京漆器としてコレクションに加えるのにうってつけである。また慶事の際の菓子器や食器として、場の華やかさを一層増してくれる逸品である。
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